IBM、AIエージェントで産業機器の「予知保全」を高度化 ― 資産管理ソフト「Maximo」が進化
IBM Researchは2025年7月3日付の公式ブログで、同社のエンタープライズ資産管理ソリューション「Maximo Application Suite」に、AIエージェントを統合する新たな取り組みを発表しました。
この取り組みは、産業機器のメンテナンスを、従来の固定的な計画から、データに基づき故障を予測する「予知保全」へと進化させるものです。
製造業やインフラ業界における設備管理のあり方を根本から変える、重要な一歩として注目されます。
IBMが描く、データ駆動型の産業資産管理
工場の生産ライン、発電所のタービン、輸送用の車両など、企業の重要資産である産業機器。これらの安定稼働は事業継続の生命線ですが、そのメンテナンスには長年課題がありました。IBM Researchが発表した新たな構想は、この課題に対し、AIエージェントという最先端の技術で応えるものです。
従来の固定的な保守計画の限界
これまで、多くの産業現場では、「1年に1回」「1万時間の稼働ごと」といった、時間や使用量に基づいた固定的な保守計画が主流でした。このアプローチは、まだ十分に使える部品を交換してしまう「過剰なメンテナンス」や、逆に計画前に予期せぬ故障が発生してしまうリスクを常に抱えていました。
MaximoとAIエージェントによる解決策
IBMのエンタープライズ資産管理ソリューション「Maximo Application Suite」は、このような課題を解決するための中核となります。今回の発表の核心は、この「Maximo」に複数のAIエージェントを統合し、データに基づいた動的なメンテナンス、すなわち「予知保全」を新たなレベルへと引き上げることです。AIが機器の状態をリアルタイムで監視・分析し、最適なタイミングで保守作業を提案することで、コスト削減と安定稼働の両立を目指します。
Maximoに統合されるAIエージェント群とその役割
IBMが構想するシステムでは、複数の専門性を持つAIエージェントが協調して動作し、産業機器の予知保全を実現します。それぞれのAIエージェントが持つ役割は明確に定義されています。
Maximo Assistant:対話で操作するAIアシスタント
まず、ユーザーとの窓口となるのが「Maximo Assistant」です。現場の技術者や管理者は、このAIアシスタントに対し、「ボイラーBの現在の運転状況は?」「過去のメンテナンス履歴を見せて」といったように、自然言語で話しかけるだけで、必要な情報を瞬時に入手したり、システムを操作したりすることができます。これにより、複雑なシステムの操作方法を覚える必要がなくなり、誰でも簡単に情報を引き出せるようになります。
Condition Insightsエージェント:故障を予測する分析AI
予知保全の心臓部を担うのが、「Condition Insightsエージェント」です。このAIエージェントは、機器に取り付けられたIndustrial IoT (IIoT)センサーから送られてくる温度、振動、圧力といった膨大なデータをリアルタイムで分析します。そして、過去のデータパターンと比較することで、機器の異常な兆候を検知し、「いつ、どの部品が故障する可能性が高いか」を高い精度で予測します。
オプティマイザー:最適なメンテナンス計画を立案
「Condition Insightsエージェント」による故障予測を受け、次に活躍するのが「オプティマイザー」です。この機能は、単一の機器だけでなく、工場全体や複数の拠点にまたがる多数の資産を考慮し、リソース(人員、部品、予算)を最も効率的に配分するメンテナンス計画を自動で立案します。これにより、個別の対応に留まらない、全体最適化された資産管理が実現します。
産業DXの現場にもたらす具体的なメリット
AIエージェント主導の予知保全は、製造業やエネルギー、交通といった社会インフラを支える産業の現場に、具体的かつ大きな価値をもたらします。
コスト削減と生産性の向上
AIによる正確な故障予測は、不要なメンテナンスや過剰な部品在庫を削減し、メンテナンスコストを大幅に圧縮します。同時に、予期せぬ設備停止を防ぎ、設備の稼働率を最大化することで、工場全体の生産性を向上させ、企業の収益に直接貢献します。
技術者の働き方改革
これまでルーチンな点検作業やデータ確認に多くの時間を費やしていた技術者は、AIエージェントの支援によって、それらの業務から解放されます。捻出された時間を使って、設備の性能改善や、より高度な故障原因の分析、プロセスの改善提案といった、人間にしかできない創造的で付加価値の高い業務に集中できるようになります。これは、技術者のスキルアップとモチベーション向上にも繋がる、重要な働き方改革です。
まとめ
IBM Researchが発表した、「Maximo」へのAIエージェント統合による予知保全の高度化は、産業界におけるデジタルトランスフォーメーション(DX)を大きく前進させるものです。AIアシスタントによる簡単な操作、分析AIによる高精度な故障予測、そしてオプティマイザーによる全体最適化。これらが連携することで、産業機器の管理は、よりスマートで、より効率的な新しいステージへと移行します。
この取り組みは、AIエージェントが、製造業やインフラといったミッションクリティカルな領域で、いかに実践的かつ強力なツールとなり得るかを示す好例です。BtoB企業は、このような先進的なソリューションの動向に注目し、自社の資産管理と生産性向上のためにAIをどう活用できるかを検討するべきでしょう。
出典:IBM Research
