Microsoftが描くAIエージェントの未来像「Agentic Web Stack」とは?AzureがOSになる日
2025年9月24日、Microsoftは、AIエージェント開発に関する同社のビジョンを集大成した「オープンなエージェントウェブスタック」という新構想を発表しました。
これは、同社のクラウドプラットフォームAzureを、来るべきAIエージェント時代の「OS(オペレーティングシステム)」として位置づけ、異なるAIエージェント同士が安全に協調して動作するためのエコシステム基盤を定義する、壮大な戦略です。
Microsoftが提唱する「オープンなエージェントウェブスタック」構想
AIエージェントが個別のツールとして乱立するのではなく、インターネットのように相互に接続され、協調して動作する世界へ。Microsoftが、同社の公式ブログにて発表した「Agentic Web Stack」構想は、まさにそのような未来を実現するための、包括的な設計図です。この構想は、特定のベンダーに縛られない、オープンで安全なAIエージェントの連携基盤を築くことを目的としています。
AIエージェント時代の「OS」としてのAzure
この構想の中核を担うのが、MicrosoftのクラウドプラットフォームであるAzure、特にそのAI開発基盤「Azure AI Foundry」です。Microsoftは、このAzure AI Foundryを通じて、AIエージェントがエンタープライズ環境で機能するために不可欠な、通信、ID管理、オーケストレーションといった8つの必須コンポーネントを提供します。これは、AzureをAIエージェントが稼働するための普遍的なOSにしようとする、野心的な試みと言えるでしょう。
エコシステムの心臓部:8つの必須コンポーネント
「Agentic Web Stack」構想を支えるのは、Azure AI Foundryを通じて提供される、8つのコンポーネントです。これらが、AIエージェントを安全かつ大規模に運用するための基盤となります。特に重要な要素は以下の通りです。
1. オープンな通信プロトコル
Microsoftは、MCP(Model Context Protocol)やA2A(Agent-to-Agent)といった、オープンな通信プロトコルをサポートします。これにより、異なる企業や開発者が作ったAIエージェント同士が、共通のルールで安全に会話し、連携することが可能になります。これは、特定のベンダーの技術にユーザーが縛られる「ベンダーロックイン」を回避し、オープンなエコシステムを促進するための重要なコミットメントです。
2. エンタープライズレベルのID管理とガバナンス
企業がAIエージェントを安心して利用する上で、セキュリティとガバナンスは最も重要な課題です。この構想では、AIエージェントのIDを、多くの企業が既に利用しているID基盤である「Microsoft Entra ID」と連携させます。これにより、企業は既存のセキュリティポリシーをAIエージェントにも適用し、「どのエージェントが、どのデータに、どこまでアクセスできるか」を厳密に管理・統制することが可能になります。
「マルチエージェント」が拓く、次世代の業務自動化
この構想が最終的に目指すのは、単一のAIエージェントによるタスク自動化ではありません。専門性を持つ複数のAIエージェントが、あたかも人間のチームのように協調し、より複雑な業務を遂行する「マルチエージェント」の世界です。
専門家AIチームによる協調作業
「マルチエージェントオーケストレーション」が実現すると、例えば以下のような業務の自動化が可能になります。
- 営業支援エージェントが、CRMから「今週フォローすべき重要顧客」をリストアップする。
- その指示を受け、市場調査エージェントが、各顧客の最新のニュースや業界動向をWeb上から収集・分析する。
- 資料作成エージェントが、調査結果を基に、各顧客に合わせたパーソナライズされた提案書のドラフトを自動で作成する。
- 最終的に、コミュニケーションエージェントが、完成した提案書を添付し、営業担当者の名前でメールを送信する。
このように、専門家AIチームが連携することで、これまで人間が数日かけて行っていたような、高度な知的業務の自動化が実現します。
まとめ
Microsoftが提唱する「Agentic Web Stack」は、同社のAzureをAIエージェント時代のOSと位置づけ、その上で動くオープンなエコシステムの覇権を狙う、壮大な戦略です。企業のIT担当者や経営者にとって、これは単なる技術トレンドの紹介ではありません。
「どのAIエージェントを導入するか」というツール選定の時代から、「どのAIエコシステム(経済圏)に参加するか」という、より大きな戦略的判断が求められる時代の到来を意味しています。Microsoftが示す、オープンで、セキュアで、協調的なAIエージェントの未来像は、今後の企業のDX戦略を考える上で、無視できない重要な道しるべとなるでしょう。
出典:Microsoft
