【生成AIと個人情報】企業が守るべき法律と安全対策を解説

生成AIの利活用を推進する上で、個人情報の取り扱いは企業が直面する最大の懸念事項の一つです。
安易な利用は、個人情報保護法への抵触や重大な情報漏洩に繋がり、企業の信頼を根底から揺るがしかねません。
本記事では、個人情報保護法と生成AIの関係性を整理し、企業が法律を遵守しながら安全にAIを活用するために不可欠なルールと、具体的な対策を徹底解説します。

なぜ今、生成AI利用における個人情報保護が重要課題なのか

生成AIへの安易な個人情報入力は、意図せぬ漏洩や法律違反に直結します。この問題は、単なる技術的なミスでは済まされず、企業の存続にも関わる経営課題です。なぜ生成AIの利用において個人情報保護がこれほどまでに重要視されるのか、その背景とリスクの重大性を3つの視点から解説します。

個人情報保護法と企業の法的責任

日本において、事業者が個人情報を取り扱う際は、個人情報保護法を遵守する法的義務があります。これには、利用目的の特定、本人の同意なき第三者提供の禁止、安全管理措置の実施などが含まれます。生成AIの利用プロセスがこれらの定めに違反した場合、企業は行政からの命令や罰金の対象となるだけでなく、被害者からの損害賠償請求に発展する可能性もあります。

意図せぬ情報漏洩と信用の失墜

一度漏洩した個人情報を完全に回収することは不可能です。顧客情報や従業員の個人情報が外部に流出すれば、企業は計り知れない信用の失墜を被ります。特に、生成AIを介した漏洩は、企業のセキュリティ管理体制そのものへの不信感に繋がります。ブランドイメージの毀損は、短期的な経済的損失以上に、長期的な事業活動に深刻な影響を及ぼす重大なリスクです。

AIの学習データ化という新たなリスク

多くの公開されている生成AIサービス、特に無料版では、入力された情報がAIの性能向上のための学習データとして再利用される規約になっている場合があります。つまり、入力した個人情報がAIモデルの一部となり、将来的に他のユーザーへの回答として出力されてしまう可能性があるのです。これは従来のサイバー攻撃とは異なる、生成AI特有の新たな情報漏洩リスクとして認識し、対策を講じる必要があります。

生成AI利用と個人情報保護法の関係性

生成AIの利用は、個人情報保護法のどの部分に関わってくるのでしょうか。ここでは「利用目的の特定」「適正な取得」「安全管理措置」といった、企業が遵守すべき主要な法的義務と生成AIの関係性を分かりやすく整理します。

利用目的の特定と通知・公表義務

個人情報保護法では、個人情報を取り扱う目的を具体的に特定し、本人に通知または公表することが義務付けられています。生成AIを利用して個人情報を処理する場合、例えば「顧客対応の品質向上のため、問い合わせ内容をAIで分析する」といった形で、利用目的にAIの利用が含まれることを明記し、プライバシーポリシーなどで公表する必要があります。

第三者提供の制限と委託先の監督

原則として、本人の同意なく個人情報を第三者に提供することは禁止されています。外部の生成AIサービスに個人情報を入力する行為は、この「第三者提供」に該当する可能性があります。ただし、業務委託に伴う提供の場合は例外となりますが、その場合でも企業は委託先(AIサービス提供事業者)が適切に個人情報を取り扱っているか監督する義務を負います。

求められる「安全管理措置」とは

事業者は、取り扱う個人データの漏えい、滅失又は毀損の防止その他の個人データの安全管理のために必要かつ適切な措置(安全管理措置)を講じなければなりません。生成AIの利用においては、アクセス制御、従業員への教育、技術的なセキュリティ対策などがこれに該当します。どのような対策が必要かは、企業の規模や取り扱う個人情報の内容によって異なります。

【シーン別】個人情報漏洩に繋がる危険な使い方

日常業務の中に、個人情報漏洩のリスクは潜んでいます。ここでは、会議の議事録要約や顧客へのメール作成など、具体的な業務シーンを例に挙げ、どのような使い方が危険なのかを具体的に解説します。これらのシーンを理解し、自社の業務フローに潜むリスクを洗い出しましょう。

危険な利用シーン 想定されるリスク
シーン①:顧客からの問い合わせメールの要約 メールの本文に含まれる氏名、連絡先、相談内容といったセンシティブな個人情報が、AIサービスの学習データになる。
シーン②:人事考課資料の作成 従業員の氏名、評価、給与といった機密性の高い個人情報が、プロンプトとして外部のAIサーバーに送信・記録される。
シーン③:Web会議の議事録作成 発言者名や、会議で共有された顧客情報、未公開のプロジェクト情報などが文字起こしされ、AIに入力される。
シーン④:自社データでのファインチューニング 顧客リストや購買履歴といった個人情報を含むデータセットを、不適切なセキュリティ管理下でAIに追加学習させる。

 

企業が取るべき具体的な個人情報保護対策

リスクを理解した上で、企業は具体的にどのような対策を講じるべきか。ここでは、社内ガイドラインの策定から、ツールの選定、従業員教育まで、実践的な個人情報保護対策をステップごとに解説します。

対策①:社内ガイドラインの策定

最も重要な対策は、生成AIの利用に関する明確な社内ガイドラインを策定することです。このガイドラインには、以下の点を必ず盛り込みましょう。

  • 入力禁止情報の定義: 個人情報、機密情報など、入力してはならない情報を具体的にリストアップする。
  • 利用可能ツールの指定: 会社として利用を許可する、セキュリティが担保されたAIツールを明記する。
  • 利用申請・承認フロー: 新しいツールの利用や、個人情報を取り扱う可能性がある場合の申請・承認プロセスを定める。

関連記事:【生成AIの安全な導入】企業のガイドライン策定5つのステップ

対策②:安全なAIツールの選定基準

ビジネスで生成AIを利用する場合、ツールの選定が極めて重要です。以下の基準を満たす、法人向けサービスの利用を原則とすべきです。

  • 入力データの非学習利用: 入力した情報が、AIの学習に利用されないことを規約や機能で保証していること(オプトアウト機能)。
  • 高度なセキュリティ: 通信の暗号化や、アクセスログの管理機能など、企業のセキュリティ基準を満たしていること。
  • データ保管場所の透明性: データがどの国のサーバーで保管・処理されるかが明確であること。

対策③:従業員への継続的な教育

どれほど優れたルールやツールを導入しても、それを使う従業員の意識が低ければリスクは防げません。「どのような情報が個人情報にあたるか」「なぜ個人情報を入力してはいけないのか」といった基本的な知識から、ガイドラインの内容まで、全従業員を対象とした研修を定期的に実施することが不可欠です。

国内外の最新動向と今後の展望

生成AIと個人情報に関するルールは、世界中で議論され、変化し続けています。企業は、自社の対策が法規制や社会の要請から取り残されないよう、常に最新の動向を把握しておく必要があります。

個人情報保護委員会の注意喚起

日本の個人情報保護委員会は、生成AIの利用に関して注意喚起を行っています。特に、個人情報をプロンプトとして入力する際は個人情報保護法上の規律が適用されること、AIサービス提供事業者が外国にある場合は国外移転規制も考慮する必要があることなどを指摘しており、今後の動向を注視する必要があります。

EUのAI法とデータ保護規制

EUでは、厳格なデータ保護規則である「GDPR」に加え、世界に先駆けて包括的な「AI法」が成立しました。これは、AIシステムをリスクに応じて規律するものであり、個人情報の取り扱いについても厳しい目が向けられています。EUで事業を展開する企業はもちろん、グローバルなスタンダードとなり得るため、その内容は必ず把握しておくべきです。

地域/組織 主要なガイドライン・法規制 概要
日本 個人情報保護法
AI事業者ガイドライン
個人情報の適正な取り扱いを規定。AIの利活用に関する倫理的原則なども示す。
EU GDPR(一般データ保護規則)
AI法
個人のデータ保護に関する厳格な権利を規定。AIシステムをリスクベースで規制する。
米国 AI権利章典の草案など 包括的な連邦法はないが、各州法や政府機関によるガイドライン策定が進む。

 

まとめ

本記事では、生成AIの活用と個人情報保護という、企業にとって重要なテーマを解説しました。生成AIへの個人情報の入力は重大なリスクを伴いますが、それは決してAIの利用を諦める理由にはなりません。重要なのは、リスクを正しく理解し、社内ガイドラインの策定、安全なツールの選定、従業員教育といった具体的な対策を講じることです。これらの対策によって、個人情報保護とAIによるイノベーションは両立可能です。信頼を基盤とした、安全なAI活用を進めていきましょう。

ホワイトペーパー無料配布中!

「AIエージェントがどのような歴史を辿ってきて、なぜ流行っているのか?導入するメリットは何か?活用事例は?」
そんな疑問を解決する1冊になっています。

今なら、メルマガを新規ご登録いただいた方全員にプレゼントしていますので、この機会にどうぞ!