【AIエージェント開発】LangGraphとは? LangChainとの違いを徹底解説

AIエージェントの開発が本格化する中、多くの開発者が「一度きりの応答」を超える、より複雑なロジックの実装に頭を悩ませています。
AIエージェントの真価は、自ら「思考」し、「行動」し、その結果を「観察」して、再び「思考」するという「循環的な(Cyclical)」プロセスにあります。
しかし、LangChainの標準機能であるLCEL (LangChain Expression Language) は、基本的に「一方向」の処理(DAG: 有向非巡回グラフ)を得意としており、この「ループ」を含む自律的なエージェントを構築するには複雑な実装が必要でした。
この課題を解決し、AIエージェント開発を次のステージに進めるためにLangChainチームが開発したライブラリが、「LangGraph」です。
本記事では、LangGraphがAIエージェント開発の何を変えたのか、その核心的な機能とLangChainとの違いを解説します。
目次
AIエージェント開発の「壁」とLangChain(LCEL)の限界
LangGraphの重要性を理解するために、まず従来のAIエージェント開発が直面していた「壁」について整理します。
「エージェント的思考」とは?
AIエージェントの基本的な動作原理は、ReAct (Reason + Act) と呼ばれる思考プロセスに集約されます。
- Reason (思考): ユーザーの要求に対し、LLMが「何をすべきか」を考える。
- Act (行動): 思考に基づき、「Web検索」や「DB問い合わせ」などのツール(Tool)を実行する。
- Observe (観察): ツールの実行結果を観察する。
- Loop (循環): 観察結果を基に、再び「Reason (思考)」に戻る。「目的は達成できたか?」「次はどのツールを使うべきか?」と、AIが自問自答を繰り返す。
従来のLangChain(LCEL)の課題:DAGの限界
LangChainのLCEL(|パイプで処理を繋ぐ記法)は、このプロセスの実装に革命をもたらしました。しかし、LCELの基本的な構造はDAG (Directed Acyclic Graph)=一方向で循環のないグラフです。
- DAGが得意な処理:
RAG (検索→LLM→回答)や要約 (文書→LLM→要約)のように、A→B→Cと一方向に流れて終わるタスク。 - DAGが苦手な処理: 上記の「エージェント的思考」のような、Cの結果次第でAに戻ったり、BではなくDに分岐したりする「ループ」や「条件分岐」です。
この「ループ」を従来のLCELで無理に実装しようとすると、コードが非常に複雑になり、AIエージェントの動作を管理・デバッグすることが困難になるという大きな壁がありました。
「LangGraph」とは? サイクル(循環)を可能にするグラフ構築ライブラリ
LangGraphは、この「ループ」問題を解決するために開発された、LangChainの拡張ライブラリです。LangChainが「チェーン(鎖)」だったのに対し、LangGraphはより複雑な「グラフ(網目)」を構築できます。
LangChainチームが開発した「状態機械」
LangGraphの核心的なアイデアは、AIエージェントの動作を「状態機械(State Machine)」として定義することです。
「状態機械」とは、システムが現在どのような「状態(State)」にあるか(例:「ツール実行待ち」「ユーザーに回答中」など)を明確に定義し、その状態がどう遷移するか(移り変わるか)を管理する仕組みです。LangGraphは、この状態をグラフとして構築します。
「グラフ」としてエージェントを定義する
LangGraphでは、AIエージェントの動作を「ノード(Node)」と「エッジ(Edge)」という2つの要素で定義します。
- ノード (Node):
- AIエージェントの「処理ステップ」そのもの。
LLMに思考させるノード、ツールを実行するノード、ユーザーに回答するノードなど、個々の機能を持つ関数として定義します。
- AIエージェントの「処理ステップ」そのもの。
- エッジ (Edge):
- ノード間の「繋がり(矢印)」です。どのノードの次に、どのノードを実行するかを定義します。
決め手は「条件分岐エッジ(Conditional Edges)」
LangGraphの最大の強みが、このエッジに「条件分岐」を持たせられる点です。
例えば、LLM思考ノードの実行後、
- もしLLMが「ツールを使うべき」と判断したら →
ツール実行ノードへ進む(Act) - もしLLMが「回答できる」と判断したら →
最終回答ノードへ進む(Finish)
この「条件分岐エッジ」により、ツール実行ノードの処理結果を、再びLLM思考ノードに戻す(=ループさせる)といった、LCELでは難しかった循環的な処理フローを、極めて明確かつ堅牢に記述できるようになりました。
LangGraphがAIエージェント開発にもたらす3つの革新
LangGraphは、AIエージェント開発を「実験(PoC)」から「実用(プロダクション)」のレベルへと引き上げます。
1. 複雑なエージェントロジックの「見える化」
AIエージェントの「頭の中」で何が起こっているかは、従来ブラックボックスでした。LangGraphは、「LLMが思考→ツールAを実行→再びLLMが思考→ツールBを実行→終了」といった複雑なフローを、グラフとして明確に可視化・定義します。これにより、開発者は意図した通りにAIエージェントが動作しているかを容易に把握できます。
2. 高い信頼性(デバッグとトレース)
LangGraphは「状態(State)」を常に保持・更新しながら動作します。これにより、AIエージェントがどのステップでどのような状態だったのかを正確に追跡できます。LangChainのデバッグツールであるLangSmithと組み合わせることで、エラー発生時に「どのノードで、どんなデータが原因で失敗したか」を瞬時に特定でき、信頼性の高いAIエージェント運用が可能になります。
3. マルチエージェントへの拡張性
LangGraphは、AIエージェント自体を「ノード」として扱うこともできます。これにより、AIエージェント同士を連携させる「マルチエージェント・システム」の構築が容易になります。
例えば、「リサーチャーAI」「プログラマーAI」「レビュアーAI」をそれぞれノードとして定義し、その間のタスクの受け渡しを「マネージャーAIノード」が条件分岐エッジで制御する(CrewAIのような仕組み)、といった高度なAIチームを自前で構築できます。
関連記事:【次世代型AI】AIエージェントとマルチエージェントの可能性とは?
LangGraphと他のAIエージェントフレームワーク
LangGraphは、他のAIエージェント構築ツールとどう違うのでしょうか。その立ち位置を整理します。
| フレームワーク | 抽象度 | 主な用途 | 特徴(イメージ) |
| LangChain (LCEL) | 高レベル | 一方向(DAG)の処理
(RAG、要約チェーンなど) |
|
| LangGraph | 中〜低レベル | 循環・分岐(Cycle)する処理
(自律型エージェント、状態機械) |
ノードとエッジで定義する「回路図」
(AIエージェントの頭脳を制御) |
| AutoGen / CrewAI | 高レベル | マルチエージェント協調
(AIチームの役割定義) |
AIチームの「ルールブック」
(決まったパターンの連携) |
LangChain(LCEL)との使い分け
LangGraphはLangChainを置き換えるものではありません。両者は補完関係にあります。
- LangChain (LCEL): シンプルなRAGなど、一方向の処理を迅速に構築する場合に使います。
- LangGraph: 思考・行動・観察の「ループ」が必要な、自律型AIエージェントの「頭脳」や「制御フロー」を構築する場合に使います。
関連記事:【完全ガイド】LangChainで進化するAIエージェント開発|実践活用と構築ステップを詳しく解説
AutoGenやCrewAIとの違い
AutoGenやCrewAIは、AIエージェント同士を協調させるための「ルール」をあらかじめ定義した、高レベルなフレームワークです。
一方、LangGraphは、それらのフレームワークが内部で行っているような「エージェント間のタスクのルーティング(割り振り)」を、より低レベルで、より自由に、自社専用のルールで構築できるライブラリです。CrewAIの逐次実行プロセスが自社の要件に合わない場合、LangGraphを使えば独自のマルチエージェント協調ロジックをゼロから設計できます。
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まとめ
本記事では、AIエージェント開発における「ループ」と「状態管理」という核心的な課題を解決するライブラリ「LangGraph」について解説しました。
LangChain (LCEL) が「一方向の処理」を得意とするのに対し、LangGraphは「循環・分岐する処理」を得意とし、AIエージェントを堅牢な「状態機械」として構築することを可能にします。
AIエージェントのロジックが複雑化し、デバッグや管理に限界を感じている開発者にとって、LangGraphはAIエージェントを「実験」から「実用品」へと昇華させるための、強力な武器となるでしょう。





