【GPU比較】画像生成・動画生成・文書生成|生成AI向けグラボの選び方

自社のPCやサーバー(ローカル環境)で生成AIを動かす際、その性能を決定づける最も重要なハードウェアが「グラフィックボード(GPU)」です。
適切なグラフィックボードを選ばなければ、AIプロジェクトは頓挫しかねません。
本記事では、「画像生成」「動画生成」「文章生成・分析」という3つの主要な用途別に、最適なグラフィックボードを選ぶための具体的なスペックの目安と、2025年秋時点でおすすめのモデルを分かりやすく解説します。
目次
なぜ生成AIには高性能なグラフィックボード(GPU)が必須なのか?
生成AIの導入を検討する際、多くの人が「なぜCPUではなく、高価なグラフィックボードが必要なのか?」という疑問に突き当たります。その理由は、AIの計算方法に特有の性質と、GPUが持つ圧倒的な「並列処理」能力にあります。
CPUとの違い:「並列処理」の圧倒的な能力
CPUとGPUの役割を料理人に例えてみましょう。
- CPU: 複雑な調理工程を一人でこなせる「マスターシェフ」。一つ一つの作業は高度ですが、同時に多くのことはできません。
- GPU: 野菜の皮むきのような単純作業を、何千人もの体制で一斉に行う「見習いシェフ軍団」。
生成AIが行う計算は、この「単純作業を大量にこなす」という性質を持っています。GPUに搭載されている数千個の計算ユニット(コア)が、AIの膨大な計算を一斉に処理(並列処理)するため、CPUとは比較にならないほどの速度でAIを動作させることができるのです。
AI計算の心臓部「CUDAコア」と「Tensorコア」
特に、NVIDIA製のグラフィックボードには、「CUDAコア」や「Tensorコア」と呼ばれる、AI計算に特化したコアが搭載されています。これらがAIの計算処理をさらに加速させるため、現在、ローカル環境での生成AI利用においては、NVIDIA製のGPUが事実上の標準となっています。
生成AI向けグラフィックボード選びで最も重要な指標:「VRAM容量」
グラフィックボードの性能指標は様々ですが、生成AIの用途において、最も重要視すべきは「VRAM(ビデオメモリ)の容量」です。このVRAM容量が、利用できる生成AIの規模と性能を直接決定します。
VRAMとは? AIモデルを置く「作業台」
VRAMを、AIが作業するための「作業台(ワークベンチ)」の広さだと考えてください。大規模で賢いAIモデルほど、多くのデータを記憶する必要があるため、より広い作業台(=大容量のVRAM)を必要とします。作業台が狭いと、そもそもAIモデルを置くことすらできず、AIを動かすことができません。
VRAM容量が不足するとどうなるか
VRAM容量が不足すると、以下のような問題が発生します。
- モデルが動作しない: 大規模な言語モデル(LLM)や高画質な画像生成モデルは、起動すらできません。
- 処理速度が極端に低下する: VRAMに収まりきらないデータをPCのメインメモリとやり取りするため、処理速度が著しく低下します。
- 生成できるサイズや品質が制限される: 生成できる画像の解像度や、一度に扱える文章の長さに厳しい制約がかかります。
VRAM容量 | 可能なことの目安 | 主な用途 |
8GB | 最低ライン。小規模な画像生成、設定を工夫すれば動画生成も可能。 | 個人の趣味、小規模なテスト |
12GB | 入門レベル。標準的な画像生成や、小規模なLLMの動作が可能に。 | SNS用の画像作成、テキスト生成の試用 |
16GB | 本格利用レベル。高画質な画像生成、中規模LLMの快適な動作。 | マーケティング素材作成、社内チャットボット開発 |
24GB以上 | プロ・開発レベル。大規模LLMの運用、AIモデルのファインチューニング(追加学習)。 | 自社専用AIの開発、研究開発 |
【用途別】おすすめGPUとVRAM容量の目安
それでは、主要な3つの用途別に、必要なVRAM容量の目安と、それに応じたおすすめのGPUモデルを見ていきましょう。
1. 用途:画像生成(Stable Diffusionなど)がメインの場合
広告素材の作成やデザインのアイデア出しなど、ビジネスでの活用が最も進んでいるのが画像生成です。
- VRAM容量の目安:
- 12GB以上(推奨): 標準的な解像度での画像生成や、複数の追加学習モデル(LoRA)を快適に利用できるレベル。ビジネス利用のスタートラインです。
- 16GB以上(快適): 高解像度の画像を生成したり、より複雑な設定(ControlNetなど)を駆使したりする場合に推奨されます。
- おすすめGPUモデル例:
- 入門〜本格利用: NVIDIA GeForce RTX 4070 SUPER (12GB)
- プロフェッショナル利用: NVIDIA GeForce RTX 4080 SUPER (16GB)
関連記事:【生成AI】Stable Diffusionとは?ビジネス活用の基本を解説
2. 用途:動画生成(FramePackなど)がメインの場合
動画生成は、連続した画像を生成するため、最もVRAMを消費する用途の一つです。SNS用のショート動画制作などをローカルで行う場合に必要となります。
- VRAM容量の目安:
- 16GB以上(推奨): 比較的短尺・低解像度の動画を生成するための現実的なライン。
- 24GB以上(快適): 長尺の動画や、高解像度の動画を安定して生成するために、ほぼ必須となります。
- おすすめGPUモデル例:
- 本格利用: NVIDIA GeForce RTX 4090 (24GB)
関連記事:【ローカル動画生成AI】FramePackで始める安全な動画作成
3. 用途:文章生成・分析(LLM活用)がメインの場合
社内文書の要約・分析や、セキュリティを確保したチャットボットの開発など、テキストを扱う生成AI(LLM)のローカル実行も重要な用途です。必要なVRAMは、動かすモデルのパラメータサイズに大きく依存します。
- VRAM容量の目安:
- 12GB以上: 7B〜13B(70億〜130億)パラメータ程度の比較的小規模なモデルを動かす際の目安。
- 24GB以上: 70B(700億)クラスの大規模モデルを、量子化などの工夫をしながら動かすために推奨されます。
- 48GB以上: 大規模モデルを本格的にファインチューニング(追加学習)する場合に視野に入ります。
- おすすめGPUモデル例:
- 本格利用(推論): NVIDIA GeForce RTX 4090 (24GB)
- 開発・研究(ファインチューニング): NVIDIA RTX 6000 Ada世代 (48GB)
用途別おすすめGPU(グラフィックボード)サマリー
これまでの内容を、用途別に一覧表にまとめました。自社の主な利用目的と照らし合わせて、最適なGPU選びの参考にしてください。
主な用途 | VRAM容量の目安 | おすすめGPUモデル例 | こんな企業・部門におすすめ |
画像生成 | 12GB〜16GB | RTX 4070 SUPER / RTX 4080 SUPER | マーケティング部門、デザイン部門、広報部門 |
動画生成 | 16GB〜24GB | RTX 4090 | SNS運用チーム、コンテンツ制作会社 |
文章生成・分析 | 12GB〜48GB | RTX 4090 / RTX 6000 Ada世代 | DX推進部門、研究開発部門、情報システム部門 |
まとめ:生成AIへの投資は「用途に合った」グラフィックボードへの投資
本記事では、ローカル環境で生成AIを活用する上で、心臓部となるグラフィックボード(GPU)を、「画像生成」「動画生成」「文章生成・分析」という用途別に解説しました。
どの用途であっても高性能なGPUが求められる点は共通ですが、特にVRAM容量は、あなたの会社が実現したいことのレベルを直接決定づづけます。
まずは自社の主な利用目的を明確にし、本記事のVRAM目安を参考に、最適なグラフィックボードに戦略的に投資すること。それが、ローカルでの生成AI活用を成功させるための、最も重要な第一歩となるでしょう。
