【AI新法を徹底解説】企業が知るべき日本の新ルールと対策

2025年9月1日、日本初のAIに関する基本法である「人工知能関連技術の研究開発及び活用の推進に関する法律」、通称「AI新法(AI推進法)」が全面施行されました。

生成AIの利用が急速に拡大する中、この新しい法律は、AIを開発・利用するすべての企業にとって、事業の進め方を左右する重要な羅針盤となります。
本記事では、このAI新法とは何か、企業の義務や罰則の有無、そしてビジネスの現場で具体的に何をすべきかを、分かりやすく解説します。

日本の「AI新法」とは?目的と対象者を理解する

AI新法は、AIのリスクを厳しく取り締まることだけが目的ではありません。むしろ、イノベーションを促進しつつ、人々が安心してAIの恩恵を享受できる社会を目指す、「攻め」と「守り」の両側面を併せ持った法律です。

法律の目的:「AIの振興」と「適正な利用の確保」

AI新法は、日本のAI開発力と国際競争力を高める「振興」の側面と、AI利用に伴う著作権侵害やプライバシー問題といったリスクに対応し、安全性を確保する「適正な利用」の側面を両立させることを基本理念としています。これまでソフトロー(ガイドライン)が中心だった日本のAIガバナンスに、初めて法的な裏付けを与えるものとなります。

主な対象者:AI開発者と提供・利用事業者

この法律は、AIモデルを開発する事業者だけでなく、それを提供・販売する事業者、そして業務でAIを利用するあらゆる企業(AI活用事業者)が対象となります。つまり、自社でAIを開発していなくても、ChatGPTのような外部の生成AIサービスを業務で使っているだけで、この法律の対象者となるのです。

AI新法が定める企業の「責務」とは?罰則はあるのか

では、AI新法によって、企業には具体的にどのような義務が課されるのでしょうか。結論から言うと、現時点では厳しい罰則を伴う強制的な義務ではなく、「努力義務」が中心となっています。

基本理念にのっとった「適正な利用」への努力

AI新法第7条では、AI活用事業者(AIを利用する企業)の責務として、「基本理念にのっとり、その事業活動を行うに当たって、人工知能関連技術の適正な利用に努めるものとする」と定められています。

これは、企業がAIを利用する際には、人権の尊重、安全性、公平性といった基本理念を理解し、それに沿って適切に活用するよう「努めなければならない」という努力義務です。

国の施策への「協力」

また同条では、国が実施するAI関連の調査研究や施策に「協力するよう努めるものとする」とも定められています。例えば、AI利用による権利侵害事案が発生した場合など、政府が必要に応じて行う調査に対し、企業は協力する姿勢が求められます。

現時点では直接的な「罰則」はない

重要なポイントは、これらの努力義務に違反しても、AI新法自体による直接的な罰則(罰金や懲役など)は設けられていないことです。これは、急速に進化するAI技術に対して、硬直的な法律でイノベーションを阻害することを避けるという、日本の「ソフトロー的アプローチ」を反映したものです。ただし、悪質な事業者に対しては、国からの指導や事業者名が公表される可能性は残されています。

対象者 主な責務 罰則
AI活用事業者(AIを利用する全ての企業) ・基本理念にのっとった適正利用に努める ・国の施策に協力するよう努める なし(努力義務)
国民 ・AIを適正に利用するよう努める なし(努力義務)

 

EU AI法との違いは?日本のAI新法の特徴

AI新法を理解する上で、世界で最も厳しい規制と言われる「EU AI法」との違いを知ることは非常に重要です。両者のアプローチは対照的です。

規制の強さ:「ソフトロー」的アプローチ vs 「ハードロー」

最大の違いは、規制の強制力です。日本のAI新法が、罰則のない「ソフトロー」として事業者の自主的な取り組みを促すのに対し、EU AI法は、違反した場合に巨額の制裁金が科される「ハードロー(法規制)」です。

規制の対象範囲:原則ベース vs リスクベース

日本のAI新法は、「人間中心」「公平性」といった原則を示し、それに沿った対応を事業者に広く求めるアプローチです。

一方、EU AI法は、AIシステムをリスクのレベルに応じて4段階(「許容できない」「ハイリスク」「限定的リスク」「最小リスク」)に分類し、リスクレベルに応じて異なる強さの義務を課すアプローチを取っています。

関連記事:【生成AIの規制】EU AI法と国内の動向をビジネス視点で解説

比較項目 日本のAI新法 EU AI法
規制の形式 ソフトロー(努力義務中心) ハードロー(法的義務)
主なアプローチ 原則ベース(基本理念の遵守を促す) リスクベース(リスクレベルに応じて規制)
罰則 なし(ただし指導や公表の可能性あり) あり(巨額の制裁金)
日本企業への影響 国内での事業活動における行動指針となる EU域内でサービス提供する場合、遵守義務が発生

 

AI新法に対応するための企業実務チェックリスト

罰則がないからといって、何もしなくて良いわけではありません。AI新法は、これからの「責任あるAI活用」のスタンダードを示すものです。企業として最低限取り組むべき対応策をチェックリストにまとめました。

対応項目 具体的なアクション 関連部署の例
1. AIガバナンス体制の構築 ・AI利用に関する責任部署や担当者を任命する ・AI倫理委員会などを設置し、定期的にリスクを議論する 経営企画、法務、DX推進
2. AI利用ガイドラインの策定 ・AI新法の基本理念を参考に、社内の利用ルールを明文化する ・特に、個人情報や機密情報の取り扱いについて厳格なルールを定める 情報システム、法務、人事
3. 利用AIの棚卸しとリスク評価 ・社内で利用されているAIツールを全てリストアップする ・各ツールの利用方法が、ガイドラインや法律に違反していないか評価する 情報システム、各事業部門
4. 従業員への教育 ・AI新法の概要と、社のガイドラインに関する研修を全従業員に実施する ・ハルシネーションや著作権といった、AIの基本的なリスクについて周知する 人事、コンプライアンス
5. 政府動向の継続的な監視 ・AI戦略本部など、政府の動向を定期的にチェックする体制を整える 経営企画、法務、渉外

 

まとめ:AI新法は「守り」と「攻め」の経営指針

本記事では、2025年9月に全面施行された日本の「AI新法」について、その目的から企業が取るべき対策までを解説しました。

AI新法は、厳しい罰則で企業を縛るものではなく、むしろ「イノベーションの促進」と「リスクへの対応」を両立させるための道しるべです。この法律で示された基本理念に沿ってAIガバナンス体制を構築すること(守り)は、法的リスクを低減するだけでなく、顧客や社会からの信頼を獲得し、より積極的で競争力のあるAI活用(攻め)を可能にする基盤となります。

AI新法の施行を、自社のAI活用のあり方を再点検し、次なる成長へと繋げる好機と捉えること。それこそが、これからのAI時代を勝ち抜くための経営戦略と言えるでしょう。

関連記事:【生成AIと法律】企業が知るべき著作権・個人情報保護法を解説

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