Hakuhodo DY ONEが「AIエージェント型広告会社」へ進化。新サービス「ONE-AIGENT」の戦略的狙い
株式会社Hakuhodo DY ONEは2025年8月1日、独自のAIエージェントサービス「ONE-AIGENT」の提供開始を発表しました。
この発表の核心は、単なるマーケティングの自動化に留まりません。企業間のデータ連携におけるプライバシーの課題を根本から解決する新概念「Zero Data Sharing」を提唱した点にあります。
これは、データクリーンルームの次世代を担う可能性を秘めた、すべてのBtoB企業が注目すべきアプローチです。
Hakuhodo DY ONEが再定義する「AIエージェント型広告会社」
デジタル広告業界のリーディングカンパニーであるHakuhodo DY ONEが、AI時代における自社のあり方を大きく変える、重要な一手を打ちました。2025年8月1日に発表された新サービス「ONE-AIGENT」は、同社が自らを「AIエージェント型広告会社」へと再定義し、企業のマーケティングDXを新たな次元へと引き上げるという、強い意志の表れです。
なぜ「AIエージェント型広告会社」なのか
この再定義は、AIエージェントを単なる業務効率化の「ツール」として提供するのではなく、企業のマーケティング活動における戦略的な「パートナー」として、事業成長そのものに深くコミットしていくという姿勢を示しています。「ONE-AIGENT」は、そのビジョンを実現するための中核となるサービスです。
プライバシー時代の切り札:「Zero Data Sharing」という新発想
今回の発表で最も注目すべきは、Hakuhodo DY ONEが提唱し、特許出願中である新技術「Zero Data Sharing」です。これは、世界的に強化されるデータプライバシー規制と、高度なデータ活用のニーズという、一見矛盾する二つの要求を両立させる、画期的なコンセプトです。
データクリーンルームの次へ
これまで、企業間で安全にデータを連携・分析する手法として「データクリーンルーム」が注目されてきました。しかし、データクリーンルームにも、企業が保有する貴重な1st Partyデータを一度外部の環境に移動させる必要がある、という手間やセキュリティ上の懸念が残っていました。
「Zero Data Sharing」は、この課題を根本から解決します。企業は、自社が保有する顧客データや販売データといった機密性の高い生データ(Rawデータ)を、一切外部に移動させる必要がありません。データは自社のセキュアな環境内に留め置かれたまま、AIエージェントが必要な分析を行い、その結果やインサイト(洞察)のみを、他のAIエージェントと安全に連携させます。
データプライバシーと高度な活用の両立
この仕組みにより、データ漏洩のリスクを最小限に抑えながら、企業間のデータ連携による高度なマーケティング分析やパーソナライゼーションが実現します。例えば、広告主企業のAIエージェントと、メディア企業のAIエージェントが、互いの顧客データを直接見ることなく連携し、「最適な広告配信ターゲット」といった分析結果だけを共有する、といったことが可能になります。これは、プライバシー保護が最重要課題となる現代において、データ活用の新たなスタンダードとなる可能性を秘めています。
マルチエージェントが実現する、マーケティングプロセスの包括的自動化
「ONE-AIGENT」のもう一つの大きな特徴は、単一の万能AIではなく、それぞれが専門性を持つ複数のAIエージェント群(マルチエージェント)が協調して動作する点にあります。
専門家AIチームによるプロセス自動化
「ONE-AIGENT」は、マーケティングの各プロセスに特化した、いわば「専門家AIチーム」です。
- デスクリサーチAI: 市場のトレンドや競合の動向を調査・分析します。
- インサイト分析AI: 調査結果から、ターゲット顧客のインサイトを深掘りします。
- クリエイティブ制作AI: ターゲットに響く広告コピーやビジュアルを生成します。
- 広告運用AI: 広告配信の最適化をリアルタイムで行います。
- 効果測定AI: キャンペーン全体の効果を測定し、次の施策への改善点を提案します。
これらの専門AIエージェントが、案件ごとに最適なチームを編成し、連携しながらマーケティングプロセス全体を包括的に支援・自動化します。
企業との連携で実現する究極のパーソナライゼーション
さらに、Hakuhodo DY ONEは、広告主企業内にAIエージェントを構築する支援サービスも提供します。これにより、企業のAIエージェントが持つ1st Partyデータと、「ONE-AIGENT」が持つ市場やメディアの知見を、「Zero Data Sharing」の技術で安全に連携させることが可能になります。これは、企業の最も貴重な資産である顧客データを最大限に活用し、究極のパーソナライゼーションを実現するための、強力な基盤となります。
まとめ
Hakuhodo DY ONEが発表した「ONE-AIGENT」と、その核心技術である「Zero Data Sharing」は、AI時代のマーケティングDXと企業間データ連携の未来像を具体的に示すものです。AIが単なるツールから、企業の戦略的パートナーへと進化し、プライバシー保護とデータ活用という長年の課題を解決する。この大きな変革の波は、広告業界に留まらず、あらゆるBtoB企業にとって重要な示唆を与えてくれます。
自社の貴重なデータ資産を、いかに安全に、そしていかに効果的に活用していくか。「Zero Data Sharing」という新しい選択肢の登場は、すべての企業が自社のデータ戦略を再考するきっかけとなるでしょう。
