エージェンティックコマースの事例は?国内34件と社名つき6件

エージェンティックコマース(AIエージェントが商品探しから購入までを手伝う買い物)の事例を探しても、社名と中身がそろって公開されている例は多くありません。当メディアの「エージェンティックコマース サービス一覧」に掲載している34件を、各社の公式サイトとプレスリリースで確認したところ、AI機能の事例を社名つきで公開しているのは6件でした。AIエージェントが外から注文する事例は、1件も見つかっていません。本記事では、数字が出ている大手モールの事例と6件の中身、事例を読むときの確認点を整理します。
エージェンティックコマースの事例は少ない
34件中、事例公開は8件
当メディアのサービス一覧(2026年9月版)に掲載している34件(製品・サービス単位)を、2026年10月8日に確認しました。数えたのはAI機能についての事例だけで、カートや物流システム本体の、AIと関係しない導入事例は除いています。
| 区分 | 件数 |
|---|---|
| 社名つきの事例 | 6件 |
| 社名を伏せた事例 | 2件 |
| 自社の実績・導入社数のみ | 5件 |
| 提供開始の告知のみ | 18件 |
| 確認できず | 3件 |
事例の有無はサービスの優劣を示すものではありません。告知のみの18件には、提供を始めたばかりで事例を出す前の段階の会社も含まれます。
社名つきは6件
顧客の社名を出している事例は、チャネルトーク、FIGUR、Vestory、ECPRO BRAIN、カンリーローカル在庫、フェイクバスターズの6件です。ただし、AIの使いどころは接客・商品画像・需要予測・運用支援・在庫の掲載・真贋鑑定とばらばらで、成果の数字まで出しているのはチャネルトークとFIGURの2件だけです。
関連記事:エージェンティックコマース サービス一覧|EC向けAIをカオスマップで比較
AIが「買う」事例は0件
AIエージェントが店の外から商品を探して注文する仕組みを、実際の店舗で動かした事例は34件のどこにも見つかりませんでした。規格(UCP・ACP・MCP・x402)への対応を発表した会社はありますが、いずれも準備段階です。
- ecbeing:UCP(Googleと業界各社が作った買い物用の共通規格)の実装を社内の検証で完了
- GMOペイメントゲートウェイ:UCP対応の決済を2026年6月に構築し、カート8社とは「連携予定」
- uniple:ChatGPTやClaudeから購入画面まで進める仕組みを試験公開(Technical Preview)
ecbeingのプレスリリース(2026年8月6日)には、次の一文があります。
UCPは現時点で日本国内未提供の仕様
海外でも、OpenAIはChatGPTの中で決済まで済ませる「Instant Checkout」の廃止を2026年3月に認めています。
数字が出ている事例は大手モール
国内で成果の数字がまとまって出ているのは、Yahoo!ショッピングと楽天市場です。どちらも売り場(モール)側のAIで、EC事業者が個別に導入する製品ではないため、当メディアの一覧には載せていません。
Yahoo!ショッピング:AI経由が約20%
LINEヤフーは2026年8月18日の説明会で、買い物客向けのAIエージェントの利用状況を公表しました。同社の公式ストーリーによると、担当者は次のように説明しています。
AIエージェント経由の取扱高比率は、2026年7月時点で約20%に達しました。
買い物前のメモ機能「AIお買い物メモ」も、月間利用者数が2026年6月から7月にかけて約12倍に伸びたとしています。
Yahoo! EC Pilot:白鳩の事例
出店者向けには、ストア運営をAIで支える「Yahoo! EC Pilot」があり、利用率は48%です。利用ストアの取扱高の前年比は、使っていないストアより15ポイント高い結果でした。インナーウエアを扱う白鳩は、競合と比べた改善点をEC Pilotに相談し、分析を基に送料無料対応を決めた結果、CVR(購入率)が40%増、月間販売数が20%増になったと紹介されています。
楽天市場:問い合わせ対応が3分の1
楽天は出店店舗向けに「Rakuten AI for RMS」を提供しており、約半数の出店店舗がAI機能を使っています。ケータイWatch(2026年7月7日)によると、プチギフトmomo-fuku(百福)は問い合わせ対応にかかる時間を月間67時間から20時間に減らしました。AIによる商品説明文の作成で、登録商品数も1000点から1万点規模に増えています。

※EC Pilotの購入率40%増と楽天市場の3分の1は、それぞれ1店舗の事例です。
掲載サービスの社名つき事例6件
当メディアの一覧に掲載しているサービスで、顧客の社名が出ている6件を並べます。
| サービス | 顧客 | AIの使いどころ | 成果の数字 |
|---|---|---|---|
| チャネルトーク | PAUL&JOE | 問い合わせ対応 | あり(正答率) |
| FIGUR | ScoLar・AYANOKOJI | モデル着用画像の生成 | あり(売上・制作時間) |
| Vestory | ナイガイ・アンティローザ | 需要予測と発注判断 | なし |
| ECPRO BRAIN | G-GLOW・はせがわ | EC運用の相談・分析 | なし |
| カンリーローカル在庫 | アップガレージ・万代 | 店舗在庫をGoogleに掲載 | なし |
| フェイクバスターズ | Buyee | 真贋鑑定 | なし |
接客:チャネルトーク
チャネルトークは、2024年11月に問い合わせ対応のAIエージェント「ALF」を正式提供しました。導入したファッションブランドPAUL&JOEでは、調整を重ねて正答率が9割前後に達したと紹介されています。ただし、数字は媒体によって異なり、BRIDGEは約3週間で96%、別の媒体は約1ヶ月で89%と伝えています。売上の数字ではなく、2年前の事例である点にも注意が必要です。
商品画像:FIGUR
FIGURは、生成AIでモデルの着用画像を作るサービスです。提供元のリリース(2026年7月21日)によると、ScoLarの公式オンラインストアでは導入前と比べてCVRが11%、売上が22%上がりました。京都のがま口専門店AYANOKOJIでは、約8時間かかっていた6カットの制作が1時間程度になっています。34件の中で、売上の実績を社名つきで出しているのはFIGURだけですが、買い物を代行するAIではなく商品画像を作るAIです。
需要予測:Vestory
Vestoryは、需要予測AIで発注を判断する在庫管理サービスです。レッグウェアのナイガイは2026年5月に導入を発表しましたが、内容は「販売機会の最大化と売上向上を目指します」という目標です。ZOZOTOWNを中心に数十ブランドを展開するアンティローザは、導入事例のインタビューで、各ブランドで1時間以上かかっていたデータ作成の工数が減ったと話しています。
運用支援:ECPRO BRAIN
ECPRO BRAINは、EC運用の相談や分析をAIエージェントが受け持つサービスです。公式のお客様の声には、お仏壇のはせがわのOnline Shopと、「AZ.Market」を運営するG-GLOWが登場します。どちらも利用者の感想の紹介で、数字は出ていません。
AIに見つけてもらう:カンリー
カンリーローカル在庫は、実店舗の在庫をGoogle検索やマップ、ショッピングに載せるサービスです。中古カー・バイク用品のアップガレージは全283店舗で導入し、リリース(2026年8月5日)は「エージェンティックコマース時代」の備えと位置づけています。リユースの万代も導入を発表しましたが、どちらも成果の数字はまだありません。
真贋鑑定:フェイクバスターズ
フェイクバスターズは、AIと鑑定士を組み合わせた真贋鑑定サービスです。2025年10月に、越境ECサービスBuyeeで鑑定の提供を始めると発表しました。連携の発表で、導入後の成果の数字は出ていません。
社名を伏せた事例と自社実績
社名を伏せた事例や、提供元の自社データには、目を引く数字も並びます。数字の出どころを確かめて読む必要があります。
genser:顧客単価1.67倍
genserは、相談するように話しかけると意図をくみ取って商品を探すAI検索です。提供元のリリース(2026年9月30日)では、日本のファッション系ECの事例を次のように説明しています。
既存検索システムと比較してgenser利用時の顧客単価が1.67倍になりました
韓国のインテリア系ECでは、商品のクリック率が50%以上だったとしています。どちらも社名は出ておらず、比べ方の詳細も書かれていません。
カラーミーショップ:MCPで店主が運営
カラーミーショップは、AIと外部のサービスをつなぐ規格MCPに対応しています。ネットショップ担当者フォーラム(2026年5月26日)の取材では、食品製造のECと生活雑貨の販売店の2社が、AIに商品登録やメルマガ作成、分析を任せていると紹介されました。34件の中で実店舗がMCPを使っている唯一の事例ですが、使っているのは店主の側で、買い物客のAIではありません。
「導入企業平均」の読み方
在庫・物流の最適化サービス「輸快通快」は、在庫コスト42%減、欠品率70%減といった数字を掲げています。ただし、リリース(2026年4月7日)には次の注記があります。
※導入効果:導入企業平均と自社実証値によるもの
どの会社の実績か、何社の平均かは分かりません。自社の実績のみに数えた5件には、ほかにecbeingの社内検証2件や、OSSのダウンロード数、AI機能に限らない導入社数が含まれます。
事例を読むときの確認点
AIは店の中か外か
今回の事例は、接客や画像作り、発注判断など、どれも店の中でAIを使う事例でした。買い物客のAIエージェントが外から来て注文する「店の外」の事例とは、準備するものが違います。自社が知りたいのが業務の効率化か、AI経由の売上かで、参考にする事例を分けて読むのが近道です。
数字は実績か見込みか
「売上22%増」のような導入後の実績と、「売上向上を目指します」のような目標は、同じリリースの中に並ぶことがあります。数字を見たら、導入前と比べた結果なのか、これからの目標なのか、何社の平均なのかを確かめてください。
プロトコル対応は予定か
UCPやACPへの「対応」をうたう発表でも、中身は「連携予定」や「対応予定」のことがあります。今回の34件では、AIエージェント経由の注文を実際の店舗で受けている事例は確認できませんでした。導入を検討するときは、今使える機能なのか、予定なのかを提供元に確認するのが確実です。
関連記事:3分でわかるMCPとUCPの違い|AIエージェントで売上を最大化する方法

まとめ:まず自社に近い区分を探す
国内のエージェンティックコマースの事例は、2026年10月8日時点で次のような状況です。
- 当メディア掲載の34件で、AI機能の事例を社名つきで出しているのは6件
- 成果の数字がまとまって出ているのは、Yahoo!ショッピングと楽天市場の大手モール
- AIエージェントが外から注文する事例は、国内ではまだ確認できない
まずは自社の課題に近い区分(一気通貫支援・AIに見つけてもらう・AIとつなぐ・AIが買う・接客・届ける・運用)をサービス一覧で選び、候補のサービスに「社名つきの事例はあるか」「数字は実績か」を問い合わせてみてください。




